滋賀県社会保険労務士会からの指導(平成28年11月11日)

当事務所では、滋賀県社会保険労務士会から「成功報酬」の記載を修正するようにという指導を受けました。

前提

内容

社会保険労務士連合会(以下「連合会」という。)は、基発0330第10号,年管発0330第5号,平成28年3月30日の厚生労働省労働基準局長大臣官房年金管理審議官名義で出された「社会保険労務士の不適切な情報発信の防止について」(以下「厚労省通知」という。)に基づき、平成28年4月に「社労士の職業倫理に照らし不適切と考えられる情報発信に関する指導指針」(以下「連合会指針」という。)を作成し、業務部企画課により「「社労士の職業倫理に照らし不適切と考えられる情報発信に関する指導指針」を理解するために」(以下「企画課指針」という。)を作成した。

連合会指針3.(4)は、「○○助成金獲得のノウハウを教えます。成功報酬は支給額の○パーセントで」という文章を例示し、これが「労働社会保険の助成金、年金給付などについて、依頼者に過度の期待をさせるような事例」にあたるとして指導の対象とし、直ちに是正すべきものであるとした。

企画課指針Ⅱ事例解説4は、「「獲得」や「成功」という表現はさも困難な条件を強引にクリアする手腕を強調するかのような印象を与え」るとして、「獲得」「成功」という記載自体を避けなければならないとした。

資料

pdficon16px厚労省通知

pdficon16px連合会指針

pdficon16px企画課指針(抜粋)

問題点

社会保険労務士は「成功報酬」の表記が禁止されるのか

当事務所の立場及び考え

当事務所は、社会保険労務士は「成功報酬」の表記が禁止されるとは考えていません。(平成28年11月13日現在)

当事務所の使用する「成功報酬」は、連合会指針及び企画課指針が危惧している労働社会保険の助成金、年金給付などについて、依頼者に過度の期待をさせるものではなく、困難な条件を強引にクリアする手腕を強調する意図ではないためです。

当事務所の成功報酬の意味は、単純に「成功」の字句の意味である「物事を目的どおりに成し遂げること。(出典「デジタル大辞泉」)」ができた場合に得られる報酬という意味を表すにすぎません。

なお、当事務所の立場及び考えが変更された場合は、追記します。

指導への対応(連合会への質問書送付平成28年11月14日)

「成功報酬」の記載について、連合会指針及び企画課指針は表現の自由に対する制限であり妥当でないと判断しています。

そこで、当事務所の考えとともに全国社会保険労務士会連合会に「成功報酬」表記を禁止する意図があるのかを質問することにしました。

当事務所の指導への考え

結論

「成功報酬」表記を禁止することはできない。

問題点及び見解

(1) 連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4の内容と表現の自由について

連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4は社会保険労務士のwebサイト上での特定の表現を懲戒処分を前提とする指導により制限するものであり、営利的表現の自由を制限する。

表現の自由は憲法21条で保証される自己実現自己統治の価値を有する重要な権利である。全国社会保険労務士会連合会は社会保険労務士法第25条の26に根拠を有する法人であるが、私人間においても表現の自由は尊重されるべきであり、不当に制限することは公序良俗(民法90条)に反し違法となる。営利的表現の自由の制限が認められるためには、その重要性から目的が重要で、手段に目的との実質的関連性が認められる範囲に留まらなければならないはずである。

確かに、連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4による表現の規制の目的は社会保険労務士法第1条の目的と重なり重要である。しかし、連合会指針3.(4)については、例示の文章のみで依頼者が過度の期待をする判断するのが相当と言える社会的通念の存在は疑わしい。企画課指針Ⅱ事例解説4については、「「獲得」や「成功」という表現はさも困難な条件を強引にクリアする手腕を強調するかのような印象を与え」るという評価も「獲得」「成功」の辞書的意義及び社会的意識を検討すれば、即座に首肯し得る判断とも言えない。また、連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4の規制を取らなくても、「ただし獲得又は成功を保証するものではない」と付記しておけば目的は図れるし、単語や単一の文章ではなく、文章全体の意図から判断すべきである。さらに、「獲得」「成功」は人口に膾炙した表現であり、読み手に分かりやすい表現といえ、わかり易い表現で労働者等の福祉に資するように努めることこそ社会保険労務士法の目的の実現に資するといえる。これらのことから手段に目的との実質的関連性は認められない。

以上より、連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4による表現の規制は表現の自由を侵害する違法な行為にあたる。

(2) 連合会指針及び企画課指針による制限について

連合会指針は前提でも明らかにした通り、厚労省通知に基づく。しかし、厚労省通知には連合会指針3.(4)の内容は存在しない。よって連合会は、連合会指針により、厚労省通知に基づかない社会保険労務士の権利制限を行ったといえる。

また、企画課指針は前提でも明らかにした通り、連合会指針に基づく。しかし、連合会指針には「獲得」「成功」自体を制限する記載はない。よって企画課指針は連合会指針を拡大解釈しているといえる。

しかし、前述の通りこの権利制限は、社会保険労務士の表現の自由の制限に関連する問題である。少なくとも厚労省通知の内容をなすような違法性が明らかな表現についてはさておき、厚労省通知の内容以外に関して表現の自由を直接的に制限するのであれば、それは連合会指針又は企画課指針ではなく規則等で会員の社会保険労務士の議論及び多数決に基づいて制定すべきである。

以上より、連合会の指針及び企画課指針により連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4の内容を定めることは不当である。

(3) 他士業との整合性について

他士業を見ると、行政書士、弁護士については、「獲得」「成功報酬」などの記載は多々見られ、記載自体を制限している例は見られない。

他方、公認会計士は、倫理規則第11条で成功報酬自体を禁止している。しかし、これは公認会計士の職務の性質を根拠とするものであり、成功や獲得という文言自体を禁止したものではなく、成功報酬制度自体を禁止したものである。また、禁止は倫理規則により定められており、指針などで定められているものではない。

社会保険労務士が公認会計士と同様に成功報酬を禁止するのであれば、職務の性質から判断しなければならないが、公認会計士の「職務の公正性の原則に対する脅威」が社会保険労務士にも該当するかは疑わしい。

また、公認会計士と同様の公正性の原則に対する脅威が社会保険労務士にも考えられるのであれば、現状のように「成功報酬」という表記のみを規制するのではなく成功報酬の内容である取引の成果若しくは結果又は実施した専門業務の結果に応じて報酬を決定すること自体を禁止すべきであり、その禁止は公認会計士と同様倫理規則により定められるべきであるが、そのようになっていない。

以上より、連合会指針3.(4)及び企画課指針Ⅱ事例解説4の内容は不当である。

補足

以上は、主張の利益の観点から、滋賀県社会保険労務士会から受けた指導に関連する問題点の指摘である。

しかし、指摘したことは、特に連合会指針3.(5)及び企画課指針Ⅱ事例解説5にも妥当する。

また、全国社会保険労務士会連合会には他の表現規制についても指摘と同様の観点から再検討していただくことを希望する。

今後の対応

今後、当事務所の質問に対する連合会の回答が「成果報酬」の記載自体を禁止する意図はないということであれば、このまま記載を継続する。

回答が「成果報酬」の記載を禁止するというのであれば、まずは連合会の決定に従う。

しかし、人権上の問題について納得いく説明がなければ、厚生労働大臣に請願を行い問題提起し、法務局の人権擁護機関に救済を求める予定である。

連合会の回答(平成28年12月1日)

内容

連合会から回答された内容の抜粋は以下の通り。

「個別の会員の皆様からのお問合わせ等に関しましては、当該会員が所属する都道府県社会保険労務士会で対応することとなっております。」

「滋賀県社会保険労務士会から速やかに回答するように連絡しております」

問題点

連合会が決めた指針の内容に対して連合会が回答せずに滋賀会に回答を丸投げした形になった。

現在滋賀会から回答が来ていないが、滋賀会としては連合会が決めたことだからという理由で動けば、何も解決されないことになる。

滋賀会への質問(平成28年12月5日)

連合会からの回答が上記のものであったため、滋賀会に対して

  1. 成功報酬という記載自体を禁止する指導を継続する意志があるか。
  2. 指導を継続する意志であれば指導に従わない場合にどのような処分が予定されているか。

について質問書を送付した。

滋賀会の対応

何度か事務局から電話があったが、権限のある人の発言なのか分からないので権限のある人による書面による回答を求めた。

権利制限を口頭でしようとしていることは理解に苦しむ。

正式な回答があれば対応を検討する予定です。

滋賀会の回答(平成28年12月19日)

滋賀会からの回答は以下の通り。

1 貴殿のホームページの「成功報酬」との表現について、平成28年10月に発行しました全国社会保険労務士会連合会の「社労士の職業倫理に照らし不適切と考えられる情報発信に関する指導指針」(ページ9)の「4.労働社会保険の助成金、年金給付等について依頼者に過度の期待をさせるような事例」のとおり、社会保険労務士としての職業倫理に照らし不適切な表現と考えられることにより「成功報酬」との表現部分について修正をお願いしているところです。

また、当会の会員に対して同様に表現の修正をお願いしております。

2 「社労士の職業倫理に照らし不適切と考えられる情報発信に関する指導指針」を理解するために、の冊子により、当会、所属会員に対し社労士としての品位保持、職業倫理の向上を実現するために、連合会の指導指針に沿った対応のご協力をお願いしているところです。

また、現時点での処分等は、当会としては考えておりません。

滋賀会の回答の評価

大前提として連合会への質問の回答は無かった。

滋賀会に答える権限も能力もない(作成していないのだから)だろうから、当然といえば当然だろう。

滋賀会に対する質問への回答についてだが、

1の部分で「成功報酬」という単語自体を禁止するという意図を肯定したことになる。

サイトの内容も見ずに表現のみを規制しようとしている訳である。

当会の会員に対しても同様に修正をお願いしているとまで言い、事実上広範な規制をしていることまで肯定している。

言葉狩りを肯定してしまうとは人権感覚がなさすぎるとしか言いようがない…。

ただ、「お願い」と三度に渡って書き、「処分」は考えていないと記載することで、任意であり強制ではないという態度を取ったことから、責任を回避しつつ幕引きを図ったと言えよう。

滋賀会への回答(平成28年12月21日送付)

滋賀会に対して、次の通り回答した。

平成28年12月 19日付け書面において、私のサイトの「成功報酬」という表現部分について修正をお願いされましたが、あくまで「お願い」であること、及び「成功報酬」記載を継続しても現時点で処分等は考えていないとのことですので、総合して考えると貴会の指導は処分を予定しないあくまで任意のものであるものと捉えられます。

そこで、私のサイトの「成功報酬」の記載については、今回の指導を無視し、修正をせず今後も表記を継続します。「成功報酬」の表現を規制することが違法であると考えられること、及び私のサイトにおける「成功報酬」の記載は指針が危惧しているような内容の意図ではないことがサイト内に表現してあるので、指針の基本的な趣旨には反しないと判断するためです。

「成功報酬」記載の修正指導が処分を予定した強制となる場合は、その旨と予定される処分の種類をご連絡ください。その段階で再度検討します。

なお、何度も指摘しているので詳述は避けますが、結果に応じて報酬を受けるという成功報酬にあたる制度自体は否定していないにも関わらず、「成功報酬」という表現のみを規制することは片手落ちである上に、言葉狩りであり、営利的表現の自由(憲法21条)の侵害にあたります。強制されるようであれば、人権擁護局の救済手続きに申告し判断を仰ぐことになりますし、処分までされれば訴訟問題にしますので、処分を前提として強制する場合は慎重に判断されることを求めます。

「成功報酬」記載の修正指導が強制でない限り返信は不要ですが、今後は貴会が会員の権利を不当に制限することなく、社労士の社会的貢献に資するよう行動していただけることを望みます。

雑感

滋賀会が強制してくることがない限り、この問題は終了かと思われる。

もし強制してくるようであれば、成功報酬の記載の禁止に関する規制は人権侵害であると法務省の人権擁護局に救済手続きを申請し、処分までしてくれば訴訟問題に発展するかと思う。

ただ、この程度の問題で滋賀会が除名処分や業務停止までするような愚行はしないと思いたい…。

抜本的解決は指針が変わらなければならないわけだが、今回連合会は指針の妥当性について判断を示さなかったので、このまま指針が存続することになる。

おかしな企画課指針が出されてしまったこと自体が非常に憂うべき状態であるが、それを正すとなるとさらなる困難が伴うのであろう。声を上げる社労士が増えるれば可能だと思うが。このページがそのための一助となれば幸いである。

そうなる前に事実上の指導に皆が従ってしまい事実上の慣習となってしまうかもしれない。そうならないことを祈りつつ。

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